みなさんは、自分が16歳のときどんな日々を過ごしていましたか?あるいは、まさに今、どんな日々を送っているでしょうか?
北欧スウェーデンに暮らす16歳の女子高校生、グレタ・トゥーンベリさんは今や世界的な話題を集める環境活動家です。今回は私たちの母体である、Fridays for Future(未来のための金曜日)をたった一人で唱えた彼女をクローズアップします。
グレタさんがストックホルムにある国会議事堂前に座り込みを始めたのは、2018年8月20日。当時、北欧は記録的な熱波に見舞われ、翌月には総選挙をまじかに控えていました。
そこで選挙権のない彼女が注目したのは、米国の高校生たち。銃規制を求める彼らが学校ストライキを手段に訴えを起こしていることを知り、同じやり方で政府に気候変動対策の強化を求めることを決意しました。
当初は、親の反対だけでなくクラスメイトの同意も得られない状況でしたが、学校を休み一人で座り込みを続けました。選挙後は政府が行動を起こすまで毎週金曜日だけ続けることを決め、手書きで書かれた「気候のための学校ストライキ」ボードを持つ彼女の姿は、ソーシャルメディアを通して瞬く間に世界で脚光を浴びました。
若者の共感を呼んだ、この抗議運動はFridays for Future(未来のための金曜日)となって各国に広がっていきました。
デモを始めた年の11月、ストックホルムで行なわれたTEDトークで彼女は現在の問題意識を持つに至ったきっかけを語りました。
8歳の頃、初めて気候変動という言葉を耳にしたとき、それが何よりも重大な問題だと言われていながら人々がなんら変わらない生活を続けていることに納得できなかったといいます。
11歳でうつ病になり、後にアルペルガー症候群、強迫性障害、選択性緘黙(かんもく)と診断されたことに言及し、「私のような自閉スペクトラムに属している人間にとっては、ほとんど全てのことが白黒どちらか」、「私にはいろんな意味で自閉的な人間の方が正常に思え、他の人たちはすごく奇妙に見える」と語ります。
その言葉に象徴されるように、彼女はそれ以後、数々の世界的な会議に招待される中で、ストレートかつ独特の表現で気候変動の危機を警告していきます。
一方で、学校ストライキを起こすグレタさんに向けて「アスペルガー症候群の子どもがこのような活動をできるはずがない」と批判する声もあります。
グレタさんは、このような声に対し、アスペルガーを「贈り物」と受け止めたうえで、「もし私が『普通』で社会的なら、組織に身を置くから自ら組織を立ち上げていました。社交的ではないから(一人で座り込みを)行なっているのです」と応じています。
このように、たとえ非難の声に晒されても彼女がメッセージを発信し続ける背景には、「パリ協定」が掲げる目標遵守への切実な想いが関係しています。
2016年に発効した気候変動対策の国際的枠組みであるパリ協定は、先進国と途上国の区別なく、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすることを目指した画期的な目標です。
しかし、各国の科学者が参加する国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が2018年10月に発表した特別報告書によると、2017年時点で地球の平均気温は産業革命前と比べてすでに約1度上昇しており、現在のペースで温室効果ガスの排出量が増えた場合、2030年〜2052年の間に1.5度を超える可能性が高いことが示されました。
そのうえで、1.5度目標の達成には今世紀半ばまでに化石燃料の使用を止めるなど、社会に「迅速で広範囲に及ぶ前例のない変化」が必要だと警告しています。
グレタがスピーチで喚起する論点は、まさにこの点にあります。「科学の下での結束」こそ彼女が求めるものなのです。
今年3月には、ノルウェー社会党の国会議員三人がグレタさんをノーベル平和賞の候補として推薦したとの発表がありました。推薦者は「気候変動を止めるために何もしなければ、戦争や紛争、難民を生む」と述べ、彼女の行動は「平和への大きな貢献」であるとの考えを示しています。
受賞が実現されれば、17歳で受賞したマララ・ユスフザイ氏よりも若い史上最年少となります。
そんな彼女は、来る9月23日に米ニューヨークの国連本部で開かれる気候行動サミットに出席するため、ヨットで大西洋を横断することに成功しました。
大量の温室効果ガスを排出する飛行機を避けるため、太陽光パネルと水中タービンで発電できるレース用ヨットを選び、その速さとは引き替えに、シャワーや暖房なしという環境での約二週間の船旅を終え、無事、ニューヨークに到着しています。
さて、9/20のグローバル気候マーチまで残り一ヶ月を切りました。「汚れた地球を我々の世代に残さないで」とのグレタさんのメッセージを受けとめ、私たちも声をあげるときがきました。
日本では未だ温暖化問題への関心が低い現状にあります。ですが、このまま気候変動の危機が深刻化すれば、今世紀の後半に生きてその問題に直面することになるのは、今の子どもたちです。大人が生み出した問題の責任を負うのは、これからの将来世代です。
世代間の不公正を正し、一人一人が問題の当事者であることを認識し、今この瞬間から行動を始めていきましょう。9/20が、あらゆる人々の「はじまりの日」となることを望みます。
宮崎 紗矢香(立教大学4年)